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 マヒワと木剣を構えて対峙する時間が明らかに長くなっていた。  マヒワの周囲を廻ったり、気休めの浅い打ち込みを仕掛けてみたりして、なんとか攻撃の隙ができないものか、と探っている。  剣術の駆け引きは、大きく分けて、相手の攻撃に先んじて打つ方法と、相手に攻撃させた後に打つ方法の二通りがある。  ともに、相手の意思をより先によみ取ることが肝要だ。  ところが、マヒワからは、その意思が読みとれない。  仕掛ける側としては、仕方なく自分から攻撃し、マヒワの動きを誘い出す戦法をとった。それでマヒワの体勢を崩せれば、儲けものだった。  無言の対峙が続く。  マヒワと三人の弟子たちの間の空気が弾けんばかりに張り詰めた。 「破っ!」  弟子が裂帛の気合いとともに一気に間合いを詰めてマヒワを打つ。  それに対してマヒワは相手のからだの中心軸に剣先を向けただけだった。  打ち下ろされた剣は、マヒワの剣に沿って外に流れていく。  流されていく剣にからだが引っ張られて、眼前にマヒワの剣が迫った。  つぎの瞬間、派手な音をたてて、その弟子が倒れた。  周りにいた弟子たちには、マヒワの剣に自から当たりにいったようにしか見えなかった。  床に伸びた弟子は昏倒したまま動かない。  周りにいた弟子たちが、昏倒した弟子を引きずって場外に連れ出した。  残る二人も同じように、ひとり芝居をしているかのように、床に転がっていった。  その後も入れ替わって、次々とマヒワと対峙するのだが、単独だろうが複数人で打ち掛かろうが、同じ調子で勝負がついてしまう。  その後も日をまたいで試錬が継続し、とうとう九十人を超えた。
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