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 羅秦(ラシン)国の王都から駅馬車に乗って西に向かえば、六日ほどでロウライに着く。  ロウライは交易路が交差する国内随一の経済都市だ。  ロウライの南北方向に一本の街道が延びている。  これが交易路の大動脈と言われる貿易街道であった。  貿易街道を北へ行けば白沙(ハクサ)通商連合の勢力圏に入り、南へ行けば海上交易で栄えるウマイツに至る。  ウマイツの港から陸揚げされた様々な物品は、河川や運河を遡上し、あるいは隊商によって陸路で運ばれて行く。  その道程は、羅秦国の内部で終わる場合もあるし、冬に雪が降って山間部の峠道が閉ざされるまで、北方の騎馬民族の市に運ばれる場合もある。  ここ最近、白沙通商連合に属する国々に向かう交易品の物量は目に見えて多くなった。  物流が増えたとはいえ、それらの品々には羅秦国の関税が掛けられるので、白沙通商連合としてはうれしくない。  そのこともあって、商売人同士の間では、羅秦国と白沙通商連合との関税交渉の話題があいさつ代わりのように交わされていた。  とはいえ、運ばれて行く先がどこになろうとも、あまたの商業圏と港をつなぐ貿易街道のにぎわいに変わりはない。  貿易街道沿いがにぎわいをみせる一方で、貿易街道から枝分かれた街道には、雨が降ればぬかるんで、移動に難渋するような地域も数多くあった。  北東方面には、そのような寂れた街道が多かったものの、街道に面して広大な牧草地帯が広がっていた。  羅秦国にとっては天然の要害である黒龍山嶺の裾には牧草地帯が広がっており、貴族に下賜された牧場のほか、王家の所有する広大な牧場がある。
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