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 マヒワは稽古の合間や休憩の時に、昼食用の獲物を捕らえようとして牧場の茂みを探したが、ついに見つけることができなかった。  これは、いままでなかったことだ。  不思議に思い、マヒワは騎乗で息をととのえ、テンと一緒に感覚を研ぎ澄ました。  牧草地を取り囲む雑木林全体に張りつめたような気配があった。  ――静かすぎる。  周辺に棲む生き物は息を顰めて、何かに警戒しているようだ。  最初に異変を感じたのはテンだった。  耳をぴんと立て、鼻先を風上に向けた。  マヒワも頭を巡らした。  微かにひとの声が風にのって届いてくる。  マヒワは声のする方向へゆっくりとテンを進めた。  雑木林が近づいてくると、複数の声を聞き分けられるようになった。 「……さまへの献上品だ。……慎重にな」  ――誰かいる。 「……チビ助だけでよい……殺せ」  雑木林までにはまだ距離があったが、マヒワは立ち木の奥が見える方向を探りながら、音をたてないように近づいた。  やがて、狩猟の格好をした者が四人ばかり、マヒワの視界に入ってきた。猟師とは違うようだ。  更に忍び寄ると、四人を監督するように、騎乗の者が一人いた。  この男は外套を羽織っているが、錦糸で西域の紋様の装飾が遠眼にも派手な出で立ちだ。乗っている馬も艶やかな黒毛で品格があった。  いかにもお金持ちの商人という風体である。  その視線の先には、狩猟用の網があって、何かを捕らえたようだ。  網の中では、白い生き物が必死にもがいていた。  マヒワは男たちに気づかれないよう、テンの歩みを進めた。  テンも心得たもので、足音ひとつたてない。
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