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 ――テンはこんなに器用だったかな?  などと考える余裕が、マヒワにはあった。  四人のうち、二人は槍を持っている。  あとの二人は狩猟弓だ。  ところが、四人とも網の中を狙ってはいない。  マヒワからは見えない方向に槍と弓を向け、息を詰めて何者かと対峙していた。  四人の向いている先を確認するために移動すると、獣の威嚇する声が聞こえた。  獣のうなり声にテンのからだが強張った。  ――狼だ。  マヒワがさらに近づこうとすると、テンは本能的に嫌がった。  狼は群れることが多いので、ほかに気配がないか探ってみたが、一頭だけのようだった。  それでも、このあたりの狼にしては、からだが大きい。  しかも銀狼だ。  銀狼は姿勢を低く構え、今にも跳びかからんばかりである。  怒りに上唇がめくれあがり、大きな牙を剥いている。  だが、さすがの銀狼も、武器を手にした四人相手には、簡単には動けないでいるようだ。  騎乗のお金持ちは、おびえながらも、主人としての威厳を保とうとしているが、馬のほうはすくんで動かない。  全体的な印象として、狙った獲物の方が格上すぎて、かろうじて耐えている状態としか見えなかった。  マヒワはテンの首を優しくなでて、落ち着かせながら、歩みを進ませた。  近づいたことで、網の中の、白い生き物の正体が判った。  まだ仔犬とも区別の付かないような、幼い狼だ。  しかも、二匹いた。  おそらく、あの銀狼の子どもだろう。  母狼が子どもを救い出そうとしているのだ。  そうと判れば、マヒワの行動は早かった。  弓弦に矢を当てると、引き絞った。  狙いは、狩猟弓の弦――。
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