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鋭く放たれた矢は、一矢でもって、狙い違わず二張りの弦を断ち切った。
間を開けず、二の矢、三の矢を放つ。
今度は、槍の穂先をすべて飛ばした。
思いも寄らぬ方向から攻撃をうけて、武器を失ったことで、男たちは混乱した。
「下がれ!」
マヒワは男たちの眼前にテンに乗ったまま躍り込むと、剣をキラリと抜いて、母狼と向かい合った。
母狼はマヒワという新手の敵に多少面食らったようだが、すぐに牙を剥きだして、低く構えた。
しだいに、うなり声は小さくなり、鋭い眼光だけが、マヒワを射貫いてくる。
マヒワは母狼から視線をそらさず、男たちに、
「どこの何者かは知らんが、ここは王家の牧場である。この牧場のあらゆる物は、王家の所有物だ。貴様たちは、王家の所有物を盗もうとしている。そうだな?」
と言い放った。
「ひ、ひっ! え、え、獲物を追っていたら、ここに迷い込んだだけだ。お、お、王家の牧場と知っていたら、こんなことはせぬっ」
騎乗のお金持ちの声はうわずっている。
「現行犯だ。申し開きは、しかるべきところでせよ」
「み、み、見逃してくれ。礼は弾む」
「わたしは、ここを管理するマガン元帥の家の者である。その派手な外套を脱げ。預かっておく」
「げ、元帥閣下の・・・」
「早く脱げ! この狼をいつまでも抑えておれんぞ!」
お金持ちが、震える手で外套の紐をほどき、脱ぎ捨てた。
「王家の牧場を盗人の血で汚すことは恐れ多い。真っ直ぐ家に帰って謹慎していろ!」
マヒワは声だけ男たちに向けて、目線は銀狼から逸らさないでいた。
それほど、母狼からの威圧はすごかった。
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