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「お前たちが逃げてもかならず見つけ出す。元帥の探索網を甘く見るなよ。判ったら、早く行け!」  マヒワの叱責に、男たちは這々(ほうほう)(てい)で立ち去っていった。  どこからともなく狩猟犬が現れて、逃げ去っていく飼い主の後を追いかけていった。  狩猟犬は狼を恐れて、ご主人そっちのけで身を隠していたらしい。  男たちが遠ざかって、姿が見えなくなると、マヒワはテンから降りた。  当然、母狼から視線を外さない。  テンも遠ざけた。  テンはよほど怖かったのだろう。ためらわず離れていった。  それでも、心配そうにマヒワの方を何度も振り返る健気なところもあった。  マヒワは、母狼を片手に持ち替えた剣で牽制しながら、子どもの捕らえられている網に近づくと、もう片手で短刀を取り出し網目を切り裁いていった。  母狼は、いつでも跳びかかれるように構えているものの、マヒワの振る舞いを観察している。  マヒワが子どもたちを助けようとしていることが、判っているかのようだ。  網がほどけ、自由になると、子どもたちは、一目散で母のもとに駆けていった。  お互いねぶり合い、じゃれあう母子は、いま命のあることを心の底から喜んでいるようだった。  母狼の威圧感がなくなったところで、マヒワも静かに距離をとり、母子の睦まじい様子を見守った。  マヒワは食糧を得るために狩りをすることはあっても、趣味や鍛錬と称して狩りをすることはない。むしろ先ほどの娯楽や金儲けのような、私欲を満たすための狩猟を憎んでいた。  マヒワのところに、子どもたちがじゃれついてきた。  マヒワのにおいを嗅いで、手のひらを甘噛みしてくる。
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