序章

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 家長はマヒワに向かって居住まいを正すと、「申し遅れました。わたくしは、ジュベン。そして妻のシエナ、息子のソイル、娘のクシルです」と家族を紹介した。  マヒワが目を向けると、母がお辞儀をしたので、子どもたちも倣ってお辞儀をする。  マヒワもお辞儀を返しながら、「命の恩人など、身に余るお褒めのお言葉、光栄です。あたしは御光流(みひかりりゅう)剣術のマヒワです」と名乗った。 「げっ! 御光流のマヒワ殿!」  と驚いて叫んだのは、家長のジュベンではなく、脇に控えていた護衛隊の隊員だった。  マヒワが、「なにか?」という視線を向けた。 「すみません、剣聖さまに不躾(ぶしつけ)でした。わたしは無為流(むいりゅう)剣術のラジムと申します」  隊員はそう名乗ると、剣を捧げ持つ剣士の立礼をしてみせたので、マヒワも同じ礼を返した。 「剣聖など、ひとがそのように言ってるだけです。それよりも、隊員さんたちのお怪我の具合をお確かめください」  ラジムはマヒワに敬礼すると、倒れている隊員たちを介抱して廻った。 「これはこれは、剣聖さまにお助け頂けるとは。わたくしたちは何と幸運なんでしょう」 「いや、だから、それは……」  マヒワは、自分のことを『剣聖』などと聖人君子に列されるような扱いが嫌だった。  同じ褒めてくれるなら、単純に「お強い」と言われる方が数倍うれしい。 「……まぁ、みなさんご無事で何よりです」  いちいち訂正するのも面倒なので、マヒワは話を続けることにした。 「ところで、ジュベン様、なぜこのような場所に野営などなさっているのですか? 野営した隊商など、野盗どもの格好の獲物ですよ」
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