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 現に宗廟事変以降、王の記憶は戻っておらず、政務にも復帰していないので、王の献上品になるとは思えなかった。  ならば、なおのこと、相手が誰なのか、見えてこない。 「マヒワ、その逃げていった男たちの特徴は?」 「まずは、こちらの外套をご覧ください」  そういってマガンに差し出したのは、商人に牧場で脱がせた外套であった。  マガンはマヒワから手渡された外套を広げて、かざしてみた。 「交易路を通じて入ってきた物らしいな。それも遙かに西方の物だ」 「海洋貿易の品かもしれませんぜ」  とバンが横合いから思いついたことを述べた。 「――うむ。陸路と決めつけるのは早計かもしれんな……」  マガンのつぶやきを聞いて、マヒワは小首を傾げて思い出すような仕草をした。 「んー。あたしは、それでも陸路の可能性が高いと思います」  とのマヒワの発言に、「どうして、そう思う?」とマガンが問いかけた。  バンも興味深そうに聴き耳を立てた。 「商人風の男が乗っていた馬は、黒毛のオーラン種で、五歳から七歳くらいのオスです。オーラン種は紗陀(シャダ)宗主国より西方が原産です。羅秦国の馬のほとんどは、北方の遊牧騎馬民族が育てているカティーラ種ですから、オーラン種は国内では珍しい馬になります。しかも、オーラン種で真っ黒な馬が生まれたことを、国内で聞いたことがありません」 「馬に目を付けるとは、マヒワらしい。馬なれば、海洋貿易の品としては向いていないか……。まずは陸路の線で調べる価値はあるな」  馬に自然と目がいってしまうマヒワには、たいして珍しくもない観察眼だったが、どうやら自分の考えが褒められたらしいことがわかった。
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