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 吹く風に冷たさがなくなり、陽の光を暖かく感じ始めたころ、マヒワとバンは廻国修行のために王都を出発した。  武術の習得のため廻国修行に励む修行者は、修行人宿という宿屋に宿泊する。  そうすると、宿屋の主人から地元の修練場に知らせが行き、見学や仕合を受け入れる意思のある師範や武術家たちから返事が届くことになっている。  修練場での見学や仕合の後には、たいてい和気あいあいと宴会になだれ込むのだが、仕合で相手の面子を潰すほど勝ってしまった場合には、恨まれて寝込みを襲われることもあるとか……。  王都を出てから二週間ほどのあいだに訪れた街は、どこも御光流剣術の影響が大きいところばかりであった。  マヒワたちが街に入って修行人宿に逗留すると、やがて地元の門弟が現れ、案内される。  修練場に着く頃には、新しい剣聖を一目見ようと多くの門弟が詰めかけてきていた。  マヒワが修練場の師範と挨拶を交わし、まだ陽が高ければ、すぐに修練場で稽古となった。  剣聖というだけでなく、御光流剣術の家元であるマガンの娘ともなれば、神が降臨したような扱いである。  立ち会う門弟たちの瞳が一様にキラキラしているのは、剣聖に対する憧れなのか、男装の麗人といってもよいマヒワに対する憧れなのかはわからない。  稽古の後に宴席が設けられるのも通例なのだが、マヒワの前には門弟一人ひとりの自慢の一品が、お供え物のように盛られていく。  ――うえぇぇ、見てるだけで吐きそう……。
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