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 先ほどの集団の一人が戸口から顔だけ覗かせると、横柄に言い放った。  ついでに食堂のなかを一瞥すると、マヒワに目をつけ、なめるような視線を這わせた。  バンが敏感に反応して腰を浮かせようとしたが、マヒワが足裏でバンの動きを押さえた。  剣士はイヤらしい笑いを口元に貼り付けたまま、屋外に消えていった。  剣士の集団は宿屋の前を過ぎて、街道沿いに去っていく。 「おお、気持ち悪ぅ~」  マヒワは両手で自分のからだを抱きしめて、身を震わせた。 「品が無ぇのを絵に描いたような連中だなぁ!」 「どうもすみません、お客さん」 「いえ、おやじさんは何も悪くありませんよ。でも、あれが剣聖さまのお屋敷の連中なのかしら?」 「お恥ずかしながら……」 「剣聖でも、いろいろね」 「お嬢さま、どうします? ここでも仕合を申し込みますか?」 「そうしたいけれど、いまは気分がのらないわ」 「あっしもそう思います。さっさとここを離れて、ロウライに向かいましょう」 「そのほうがよいかも……」  マヒワとバンのほかは客がいなかったので、その後もしばらく、おやじを交えての雑談になった。 「おやじさん、みなさんが『剣聖』って呼ぶからには、剣聖と呼ぶにふさわしい活躍とか評価とかがあったからですよね」 「そうです。剣聖さまは、それはもう、大層ご立派な方ですよ」 「でも、さっきの連中を見る限り、剣聖にはほど遠いような気がしますけど……」 「――あれは、剣聖さまのご子息と、その取り巻き連中です」  おやじの話によると、二十年ほど前のこと、タイゲン村の外れに野盗が砦を構え、街道を行く隊商や旅人が襲われるようになったという。
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