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 治安部隊は街の治安を守ることはできても、郊外は管轄外で、街で発生した事件と関連性のない限り、取り締まることができない。  目に余る場合は近所に駐留している軍に頼むことになるのだが、討伐のために軍を動かそうとすると、野盗たちは敏感に嗅ぎつけ、どこかに失せてしまう。  そして軍が警戒を解いてほとぼりが冷めた頃に、また野盗が集まって暴れだす、といった悪循環が続いていた。  治安部隊や軍が頼りにならないというので、タイゲン村では自警団を組織することにした。  その中核を担ったのが、看板を掲げたばかりの双極流剣術の剣士たちだった。  剣士を中心とする自警団は、野盗の頭目が一人になる機会を狙って、退治することに成功した。  頭目を失った野盗たちに統率のとれた行動はなく、個々に撃破され、生き残った者らは散り散りに逃げ去ったという。 「――このときの功績を称えて、私たち村の者は、お家元を『剣聖さま』とお呼びするようになったのです」  この事件が切っ掛けとなって、双極流という地元の剣術が一躍有名になり、門弟の数が急増したそうな。 「それで――その家元さまはまだご存命ですか?」 「ええ。しかしながら、もう長いこと病の床に伏せっておられ、いまは稽古をご覧になることもないようです」 「ははーん。あの二代目は親のキラキラしたところだけを見て育ったってことか。それなら、ああなるのも、うなづけらぁ」 「そうなんです。取り巻き連中が若さまをあのように育ててしまったのです」  というおやじの表情は苦り切っていた。  もう日の暮れが迫ってきたので、マヒワとバンは代金を払い、二階に上がった。
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