6/26
前へ
/220ページ
次へ
 食堂ではおやじが気を利かせて小鉢やお摘まみを出してくれたので、腹はすいていなかった。  バンは小鉢や摘まみを前にして、酒を呑みたそうにしていたが、マヒワの手前、耐えに耐えていたようだった。 「おじさん、ずいぶん我慢してたでしょ。おじさんの部屋に、あとでお酒、持ってきてもらおうか? いっぺんお酌っていうの、やってみたい!」 「お、お嬢さま! 滅相なことを言っちゃいけませんや。もったいなくて、酒がのどをとおらねぇ」 「つまんないの。でも、おじさん、たまには息抜きしてね」 「へぃ、お嬢さま。ありがとうございます」  マヒワの気遣いに触れて、バンは感に堪えない様子であった。  街に入り、宿をとると、いつもならマヒワは地元の修練場に、バンはところの情報集めに廻るのだが、先ほどの連中を目にしたのと、野盗の話を聞いたからか、どちらが言うともなく別行動を控えるようにしていた。  警戒していた甲斐があったのか、それとも、その日がもともと平穏な一日であったのか、少々拍子抜けするほど何事もなく時間が過ぎた。  マヒワは村を見て回ったときにかいた汗が気になって、からだの汚れを落としたくてたまらなかった。  先ほど舐められるように見られたせいでもないが、道中、自分が若い女性というだけで常に誰かに見られているのを感じてはいた。  そういえば、マガンから剣士の心得として、「いつ死んでもよいように、からだと下着は清潔にしておけ」という格言めいたことを聞いたような気がする。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加