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バンの声を潜めた言い方に、マヒワは興味津々といった表情で応じた。
「どうも、仇討ちのようでっさぁ」
「か、かたきうちぃー?」
マヒワの声が思いのほか大きかったので、あわててバンがその口を塞ぐ。
「ご、ごめんなさい……」
マヒワが慌てて声を小さくする。
「なんかねぇ、――ここへ来るまでに、師匠を殺した相手を見付けたような感じです」
「ということは、おじさん。あたしたちと同じように、廻国修行中なのかな? お隣のひと」
「さぁ、そこまではわかりませんがね……。でも、仇を探して歩き続けているような感じでござんしたよ」
「修行するためでなく、ただ仇討ちのために延々と旅を続けているのかしら? だとしたら、すごい執念……」
「いまは、何とも判断できませんがね。ただ、今更ながら、本当にやっていいものか、迷っているようで」
「やるって?」
「仇討ち。つまり、相手を殺すということですよ」
「それが本当なら、えらく物騒な話ね。でも、仇討ちの相手を探し続けて、やっと見付けたのに、なんでいまさら迷うのかしら?」
「それだけ相手が本物で、間違いないんだと思いますよ」
「決心に至る最後の一押しを待っている、――みたいな」
「それです」
「うわぁー、こわっ!」
しーっ!
また大きくなり始めた声を、バンがたしなめる。
こくこく、と頷くマヒワ。
「でも、おじさん。あの調子で、夜中じゅう、ぶつぶついわれたら、明日は二人とも寝不足よ。お肌にも悪いわ」
なぜだかわからないが、マヒワは、にわかに美容にも目覚めたようだ。
「教えてくれるかどうか、わかりませんが、いっぺん宿屋の主人に訊いてみますか」
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