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 宿屋の主人は、状況を理解してもらえただろうか、と二人の様子を不安そうな面持ちで眺めた。  マヒワとバンは、顔を寄せ合い、しばらく相談して、 「あたしたちがその長元坊さんとお部屋を入れ替わります。相手が承知されたら、構いませんでしょう?」  と提案した。 「はい、それはもう、ご随意に」  宿屋の主人は自分が間に入らなくてよいことがわかると、途端に表情を明るくした。  こんな調子で普段はもめごとを解決できているのだろうか、と二人は少し心配になった。  とはいえ、あとの調整は任せてもらえたので、宿屋の主人にお礼を言って、問題の部屋の方に向かう。  二人は、長元坊の部屋の前に立つと、扉を叩いた。  再び叩いて、耳を澄ます。  部屋の中からは返事も足音もなかったが、確かに扉の傍にひとの気配を感じた。  その気配も、武術を体得している二人だから感じられたほどの微かなものであった。 「あのー、長元坊さん? 隣の部屋のマヒワでーす。もう一人はあたしの連れのバンおじさんですぅ。お部屋のことで相談がありますので、よかったら扉を開けてくださぁい」  マヒワはできるだけ明るい声音で、害意のないことを知らせようとした。  聞きようによっては、ただの能天気である。  バンは却って警戒されるのじゃないかとハラハラしたが、幸いなことに扉が少し開いた。 「あっ、よかった! 初めまして、マヒワです」  と、さっさと自己紹介を始めて、お辞儀をした。  主であるお嬢さまがお辞儀をしたので、従者たるバンもつられて頭を下げる。  扉が大きく開き、長元坊もお辞儀を返してきた。
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