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 物騒なことを言っている割には、礼儀はきちんと弁えているようだ。 「わたしが長元坊ですが、お部屋がなんと?」  長元坊の背格好だけを見ると、マヒワとは年齢が近い印象だった。つるつるの坊主頭が年齢を若く感じさせる。 「んーっと、いろいろ説明するとややこしいことを聞かなくちゃならなくなるので、端的に申し上げます」  マヒワは初対面にもかかわらず、ぐいぐい話を進めていく。 「長元坊さんの独り言が気になって眠れませんので、あたしの部屋と替わって頂きたいのです」  長元坊はしばらく考えて、 「部屋を入れ替えただけでは、わたしの独り言がうるさい、というのは変わらないのでは?」  と至極まっとうな疑問を述べた。しかも、独り言を否定していない。  それに対して、マヒワは「そうですね」と反論しない。 「ご事情があるようですので、独り言をお控えいただきたいのですけれど、無理は言いません」  ――んで?  という表情を長元坊は見せる。 「あなたのお部屋の隣には、このおじさんが入ります。あたしは、おじさんの部屋に移りますので、あたしは大丈夫です!」 「えっ! あ、あっしですか?」  バンは、マヒワが時々繰り出す、お嬢さま気質の直撃を喰らった。  マヒワとの付き合いが長いバンでも、いつ自分に災難が及ぶのか予測不可能な困った気質である。  自信満々で、万事解決を宣言するマヒワに、半ばあきれ顔の長元坊であったが、 「承知しました。――ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」  とこちらも素直に部屋の移動に従った。  お互い旅慣れていることもあるので荷物は少ない。
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