14/26
前へ
/220ページ
次へ
 寝具も自分が使ったものを移して、短時間で部屋の移動を終えた。  マヒワは、バンの使っていた部屋に入り、持ち物を好みの配置に整えていると、扉を叩く音がした。  扉の向こうに殺気のないことを感じると、「はーい」と返事をして扉を開けた。  少し思い詰めたような長元坊が立っていた。  ――げっ! 独り言を禁じられたので、「わたしの脳内会話にご招待しよう」ときたか!  とマヒワは意味不明な早合点をして、半歩だけ後ずさる。 「マヒワさんに、折り入って頼みたいことがございます!」  返事は内容を聞いてから、というような生っちょろい対応を許さぬ気迫で、長元坊はマヒワに迫ってくる。 「は、はい――?」  マヒワはもう半歩後ずさり、長元坊が一歩踏み込んでくる。 「先ほどお荷物を拝見して、マヒワさんは剣士であるとお見受けしました。違いますか?」 「はぁ。――いちおうは、というか、それなりに、ではありますが……」  マヒワの返事を肯定と捉えると、長元坊は頭を深々と下げ、その姿勢のまま、 「わたしと真剣で闘っていただきたい!」  と叫ぶように頼んだ。 「ええっと、つまり文字通りの真剣勝負ってことですよね?」  ――脳内会話にご招待もまずいけど、真剣勝負はもっとまずいわよ。  マヒワは何とか真剣勝負を回避できないものかと、考えに考えたが、妙案は浮かんでこない。 「――真剣勝負ってぇのは、穏やかじゃないねぇ。うちのお嬢さまをひと殺しにするおつもりで?」  と助け船を出したのは、いつの間にか長元坊の背後にいたバンであった。 「御坊の事情を伺いましょう。真剣勝負の話はそれからでも遅くはあるめぇ」
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加