序章

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「当然、追いつけ、ません、でした、がね。馬に、乗ってるやつの、姿は、見え、やした」  バンは肩で息をしながら、絶え絶えに報告した。 「すみませーん。お水ありませんか?」  マヒワは、ジュベンから水筒を受け取ると、バンに渡した。  バンは、口の端から水をこぼしながら、半分ほど一気に飲んだ。 「ぷはぁー、ありがてぇ! 生き返ったぁ!」 「それで、どんな姿だったの?」 「まぁ、月あかりもあって助かったんですが、この先がつづら折りの下り坂になってましてね。それで崖の上から、先を行く野郎の姿を見下ろすことができたんで……」  マヒワは、ふんふん、と相づちを打って、話の続きを促した。 「馬の上に乗った野郎は――烏衣衆(ういしゅう)のように見えやした」 「烏衣衆!」  思いがけず、母を殺した(かたき)の名が出てきて、マヒワが叫んだ。 「なんで、紗陀(シャダ)国お抱えの暗殺集団がジュベンさんを狙うのよ?」 「それについては、わたくしのほうからお答えしましょう」  と言って、ジュベンが話を引き取った。 「わたくしの商売の基盤は、海洋貿易です。本拠地はウマイツにあります」 「ウマイツは南の方の湾岸都市ね。まだ行ったことないので、よく知らないけど……」 「港に出入りする船舶の管理と交易品を隊商に中継するのが、わたくしの主な事業です」 「それで、烏衣衆はジュベンさんを暗殺して、交易路を混乱させるのが目的なのかしら? でも、変ね……」 「紗陀宗主国を中心とした白沙(ハクサ)通商連合にとっちゃ、物流が安定するほど、実りがあるはず。混乱させるのはおかしいや」  マヒワの疑問をバンが整理する。
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