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「師匠を(あや)められた御坊のお気持ちは、よぉーくわかりやすが、やっぱり今の時代に仇討ちのような復讐劇は流行りませんぜ」 「あたしは、あなたを人殺しにしたくない」  一応、長元坊が勝つという前提で、説得にかかった。  そもそも、マヒワは、雷拳のことも、弟子である長元坊の技量も、知らないのだ。 「わたしも、人殺しはよくないと思っています。ですが、師匠を殺したにもかかわらず、大手を振って街を出歩いている奴らが、何のお咎めもなくのうのうと暮らしていることが気に入らない」 「うん! そこは、あたしも気に入らない!」 「おっ、お嬢!」  説得するほうが、すんなり納得したものだから、バンは慌てた。  バンは、マヒワのことを人前では「お嬢様」などと様付けで呼んでいるが、実は二人きりだと「お嬢」と呼ぶことが多い。  それだけ、バンにとっては予想外の展開になろうとしている。 「でも、人殺しはだめ! きちんと治安部隊に引き渡すと約束してくれるなら、協力します」  とマヒワは一線を引くことを忘れてはいなかった。  とりあえず、バンは胸をなで下ろす。 「さぁ、条件をのみますか?」  マヒワは更にたたみ掛ける。  長元坊は、腕を組んで空中の一点を睨み、低く唸ると、眉間にしわを寄せて目をきつく閉じた。  長元坊のこころのなかで、激しい葛藤があるようだった。  そして、せめぎ合いの末、「わかりました。従います」という結論に至った。 「よいご決断です!」  とマヒワは素直に褒め、 「こちらも承知しました。でも、いきなり真剣の勝負は危険ですので、まずは木剣で、慣れてから真剣という手順を踏ませてもらいます」
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