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 有無を言わせず主導権を握った。 「徒手の間合いは得意ですが、剣の間合いには慣れていませんので、よろしくお願いします」  ここまで来れば、長元坊としては素直に頭を下げるしかない。  三人で話し合った結果、仕合稽古は明日の朝から始めることにして、お互いの部屋に戻った。  翌朝――。  マヒワとバンは、宿屋から少し離れた、穀物倉庫の前にいた。  秋の収穫の最盛期になれば、ここから交易拠点となるロウライの街に向かって、荷馬車の長い行列ができるのが、村の風物詩であった。  ロウライのような大都市の周りには、このタイゲン村のように食糧を供給する村が数多く存在していた。  今頃の出荷は、野菜が中心なので、朝早くから収穫して多少涼しくなる夕方ごろから荷馬車への積み込み作業が行われる予定であった。  したがって早朝の倉庫付近には誰もいなかった。  マヒワは木剣の両端を握って、からだの筋を伸ばしていた。  近くで、切り株に腰を下ろしたバンがその様子を眺めている。  二人が宿屋を出るとき、すでに長元坊は部屋にいなかったので、てっきり先に来ているものと思ったが、約束していたこの場所に着いてみると、長元坊の姿は見当たらなかった。  することもないので、こうして柔軟体操をして時間を潰しているが、まだ来ない。  ――何してるんだろう? 自分でお願いしたくせに。  愚痴ってばかりいても仕方ないので、穀物倉庫の周辺を散歩することにした。  バンには念のために、切り株に座って待っていてもらう。  マヒワが倉庫のちょうど反対側へ廻ったときだ。  ――えっ!  倉庫の壁に沿うような形で何かが立っていた。
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