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 その衝撃で、長元坊の意識は戻ったようだ。 「ぐはあッ!」  長元坊はヘソを両手で押さえてもだえ、背中の痛みにのたうち回った。 「おかえりー」  長元坊はマヒワの顔を見ても、いまの状況を理解できないようだった。 「あのー、すっごく待ってるんですけどぉー」  マヒワの不機嫌そうな表情を見て、長元坊はようやく事態を把握したようで、「すみません! すみません! いままでになく深く入ってました!」 と慌てて身を起こすと、何度も頭を下げて謝った。  どこに深く入っていたのか判らないが、おそらく「いつもより集中できた」ということなのだろう。  気を取り直して――。  先ほど長元坊が逆立ちしていた場所に、飼い葉が積まれていて、ちょうどよい広さの空間になっていたので、そこで徒手対剣の稽古仕合をすることにした。  マヒワと長元坊は、向かい合って立っていた。  マヒワは右足を前に出し、木剣を正面に構えて、長元坊に対峙した。  長元坊も右足を前に出して、腰をやや低めに落とし、両手の拳を顔の前に構えた。  マヒワが真剣よりも木剣を遣うことを好むのは、できれば相手の命を奪うようなことをせず、戦闘能力を奪いさえすればよい、と考えているからだった。  とはいうものの、真剣を木剣に変えたところで、からだに当たれば、打撲は言うに及ばず、大抵は骨折する。  ちから加減の難しいのは判っているが、かといって手を抜くことはできない。  それは、長元坊も同じだった。  鍛えた拳を相手のからだのどこにどの角度から当てるかを熟知していれば、昏倒させることもできるし、骨折させることもできる。
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