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 拳術家の鍛えた拳は、立派な凶器なのだ。  マヒワも長元坊もお互い見合ったまま、動かなかった。  長元坊が拳から握るのをゆるめて、指先を揃えた平手に変えた。  右手だけを前に滑らせるように出し、マヒワの攻撃を誘った。  マヒワはその誘いに乗った。  木剣を鋭く突き出す。  長元坊が右手で木剣を左に払うと、マヒワの懐に飛び込んできた。  ――!  マヒワの左顔面と腹部、右脚に衝撃が奔った。  打撃の位置は違えど、あまりの打突の速さに音はひとつに重なていた。  マヒワの意識が、瞬間、跳んだ。  マヒワは木剣こそ取り落とさなかったものの、地面に片膝をついた。 「お嬢!」  バンが思わず叫ぶ。  バンの声で、マヒワはかろうじて意識を保つ。  しかし、焦点が合わない。  目の前に長元坊が迫っているのが判る。  ――やられる!  とマヒワは思ったが、からだが反応しない。  一方、長元坊は充分な手応えを感じたので、用心することなくマヒワに近づいた。 「あれだけ打たれても、ふっ飛ばないなんて、さすがマヒワさんは重いっ――ぶッ!」  今度は長元坊の横っ面が吹っ飛び、頬を打つ破裂音が響く。  衝撃で長元坊は文字どおり、きりきり舞って、積み上げた飼い葉のなかに突っ込んでいった。  その上に飼い葉の束が崩れ落ちていく。  舞い上がった埃が収まったとき、長元坊は飼い葉に埋まっていた。 「アホか、あいつは。曲がりなりにも乙女のお嬢に向かって、さすがに『重い』はまずいだろ」  と、不穏当なひとことをつけて、バンがつぶやく。
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