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マヒワが「重い」という言葉に反応したのかどうかはわからないが、無念無想で繰り出されたビンタは、音速を超えていたようだ。
バンは、マヒワが怪我をしていないか診て、長元坊を飼い葉のなかから救出した。
「お二人とも、まだお続けなさるんで? お互い、妙に手加減なさるようじゃぁ、いくらやったってお上手にはなりませんぜ」
「おじさんのいうとおりかも……。なんか本気になれないのよね……」
そういうマヒワは、ようやく立ち上がったものの、足元の地面をぼんやりと眺めていた。
「俺も連打を出し切れなかったし……」
と、長元坊はビンタで腫れた頬をさすった。
マヒワは、あれでも不完全な連打だったのかと思い、徒手の技を侮っていた自分を恥じた。
「あーっ、だめ! 今日はおしまい! あたし、帰ります!」
というやいなや、マヒワはきびすを返した。
どんどん遠ざかっていくマヒワの背中をみて、残されたバンと長元坊は顔を見合わせる。
「俺、何かいけないことしました? 何か言いました?」
――自覚ねぇのかよ。
と、バンは苦笑いするしかなかった。
結局、二人もマヒワのあとを追って宿屋に戻ることにした。
宿に帰ると長元坊はまっすぐ部屋に入った。
バンも一旦は自分の部屋に入ったものの、マヒワが心配になってすぐに部屋を出た。
マヒワの部屋の前で立ち止まり、なかの気配を伺う。
マヒワは部屋にいるようだった。
「お嬢様、朝から何も口にされていらっしゃらねぇし、下の食堂に行きませんか? なんなら、買ってきても……」
「いまいらない。ほっといて!」
心配するバンに、にべもないマヒワの声。
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