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 翌日の早朝、三人は再び穀物倉庫前に集まっていた。  倉庫前の広場が稽古場として定着したかのようだった。  バンは昨日と同じ切り株に座って、見学である。  昨日は部屋にこもりきりだったマヒワも、今朝はいつもと変わらない様子で、からだをほぐしていた。  一方の長元坊は昨日のような二本指の逆立ちをしておらず、つまりは集中力を養成するような準備体操をしていなかった。  かといって、マヒワを侮っている訳でもない。  長元坊は、昨日くらったマヒワの平手打ちの迅さが、自分の繰り出す攻撃の迅さをはるかに上回っていたことに衝撃を受けていた。  長元坊の修練する雷拳の『雷』は、文字通り「いかずちのはやさ」を意味している。  かねてより、長元坊は、自分より迅い攻撃のできる者は、いまは亡き師匠をおいて他にいない、と自負していた。  その自負が、自信が、粉々に砕かれた。  昨日、実は、長元坊も部屋に戻って泣いていたのだ。  しかも長元坊は悔しくてひたすら泣いていただけで、解決策は全く見いだせていない。  正直なところ、いまの自分の身体能力では、現状いかんともし難いという結論に達していた。  つまり、これから始まるマヒワとの稽古仕合に対処する考えなどなく、完全な無策であった。  結果として、長元坊はマヒワの前で突っ立って待っている格好になったのだが、マヒワには、余裕綽綽とした憎らしい態度として映っていた。  それもあって、長元坊のことを快く思っておらず、手加減をする気など微塵もなかった。  何しろ長元坊の打突の(はや)さは、マヒワの攻撃を上回っているのだ。  からだを延ばし、息を調えたマヒワは、
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