序章

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「そうです。彼らは、わたくしを誘拐しようとしたのでしょう」 「人質にして脅迫ですか? 大国がする行為にしては、なんか、みみっちいわね」  マヒワはしばらく考えていたが、「あー、わかんない」と()を上げた。 「いえ、脅迫ではなく、洗脳です」 「洗脳? これまた、物騒な!」とマヒワとバンの声が揃う。 「烏衣衆は、標的に対して『魔香(まこう)』というお香を巧みに使います。魔香には睡眠導入や幻覚を引き起こす成分が含まれています」 「じゃぁ、その魔香っていうのをジュベンさんに嗅がせて、自分たちの意のままに操ろうと考えていたとか――」 「その可能性が高いですね。わたくしを本気で殺そうとするなら、先ほどの襲撃の機会にいくらでもあったはずです」  このジュベンの推論に、マヒワは頷いた。  マヒワたちは、誘拐が目的なら、相手の被害状況から見て、今夜の襲撃はもうない、という結論をだした。  ならば――、と野営の場所をこちらに移すことに決めた。  ジュベンたち家族は荷馬車で寝てもらって、残りの者で拘束した襲撃者たちを一カ所に集め、二人ずつ交代で見張ることにした。  ラジムには、夜道ではあるが、近隣の街へ治安部隊を呼んできてもらうことにした。馬に乗れば、夜明けまでには治安部隊が来てくれるであろう。  ひととおりの作業が終わると、マヒワとバンは先に休むほうの組なので、たき火の傍で横になった。  マヒワは寝ようとしたが、なかなか寝付けなかった。  バンも同じようだ。 「……ねえ、おじさん」  マヒワは夜空を見上げながら、バンに声を掛けた。  バンから返事はなかったが、聞いているようだった。
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