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「さぁ、はじめよっか――」  と木剣を正面に構えた。  長元坊も頷き、両手の拳を顔の前に構える。  今日はマヒワの方が先に動いた。  突き出された木剣は、一直線に長元坊の拳へ伸びていった。  長元坊はあわてた。  顔や胴体、急所を狙ってくる攻撃に対しては、それに反撃する技法が雷拳には数多くある。  しかし、いまのように拳そのものを狙ってくるのは初めてだった。  それに対処する技法を長元坊は習っていなかったし、これまで自分で工夫することもなかった。  師匠なら身につけていたかもしれないが、ひょっとしたら雷拳にそのような技法がそもそも無いのかもしれない。  マヒワの木剣は、長元坊の拳を執拗に狙う。  勢いを流そうとしても、弾こうとしても、マヒワは剣先を巧みに返して、伸ばした手の甲を狙って打ってくる。  手の甲に、骨折まではいかないが、痛みが積み重なっていった。  長元坊はマヒワの木剣を手で払うたびに振って、少しでも痛みを散じようとする。  マヒワはその手をまた狙う。  長元坊は手の痛みが限界に達したので、足を蹴り上げて、足底で木剣を払おうとした。  今度は、足の甲に木剣が伸びてくる。  足に痛みが溜まると、今度は手に切り替えて、また足で――。  長元坊は、手の甲と足の甲に激痛が走り、熱を持って腫れているのを感じた。 「ちょ! ちょ! まって! 待て! マヒワ! 待てぇーぃ!」  とうとう長元坊は恥も外聞もなく逃げ出した。  その後をマヒワが追いかける。  二人の追いかけっこを見ていたバンは「まるで子どもの喧嘩じゃねぇか」と首を振っている。  とうとう長元坊が地面に転がった。
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