3/7
前へ
/220ページ
次へ
 痛む手足を縮めた格好で、頭と腹を必死に庇っている。  その情けない格好をみて、マヒワから闘志が失せた。 「アホらし。やーめた」  マヒワは、振りかぶっていた木剣を脇に垂らすと、長元坊を上からのぞき込んだ。 「坊、あんたね! 真剣だったら手足が無くなっているわよ!」  マヒワは手に持った木剣の先を長元坊に突きつけ、なかなかの剣幕でまくし立てた。 「なんなのあれ! あれが雷拳? 師匠の仇? ふざけんじゃないわよ!」  マヒワのご立腹は収まらない。 「あたしが悔しい思いをして、ほとんど寝ないで考えてたのに、なによ! あれじゃ、ただのでくの坊だわ!」  これだけ怒っているマヒワをバンも見たことがなかった。 「あんた! 名前を『でくの坊』に変えたら! って、泣くなーッ!」  長元坊は泣いていた。  マヒワの暴言に言い返そうともせず、ただ泣いていた。  マヒワは、木剣を腰に収めると、一度大きく深呼吸した。 「……ごめん、いいすぎた。……あたし、帰ります」  マヒワは昨日と同じようにきびすを返し、帰って行った。  バンはその後ろ姿を見て、マヒワも泣きそうになるのを(こら)えているのがわかった。  バンは切り株から腰を上げ、長元坊のほうに歩いて行った。 「どれ、手をみせてみろ」  バンは長元坊の承諾を得ることもなく、縮めている手を取って、診た。  赤く腫れているが、紫色になっていない。 「お嬢は、ちゃんと加減されてたようだ。明日も痛むだろうが、稽古はできるだろう」 「おっちゃん……」  長元坊は、腫れた手をさすりながら、つぶやくような声でいった。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加