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「おっちゃんは、行き詰まったとき、どうする?」  長元坊の涙は止まっていたが、気分はどん底のようだった。 「俺は最強だと思っていたのに、ただの思い上がりだってわかったとき、おっちゃんはどうする?」  長元坊は、瞼をぼんぼんに腫らした目で、バンを見た。  長元坊を見返すバンの眼差しは優しい。 「――もう、あきらめるか?」 「……」  バンからそう聞かれた長元坊は、何もいわず、ただ唇を噛みしめた。 「なら、くやしいか?」  長元坊は、うつむいて、苦悶の表情を浮かべた。 「あ……、ああ……。くやしいな……。とっても……」  よやく、長元坊は絞り出すような声でいった。  その言葉に、バンは頷くと、たった一言。 「なら、――あきらめるな」  長元坊はバンの言葉をこころに染み込ませるように目をつぶった。 「……わかった」  長元坊は頷いた。 「先に帰るぜ――」  まだ地面に転がっている長元坊をそのままにして、バンは去っていった。  長元坊は手足を伸ばし、大地に身をゆだねた。  しばらくそのまま動かなかった。  目を閉じて、すべての感覚を解放する。  すべてがまっさらになった。 「よし!」  長元坊はひとりで立ち上がった。  足は痛くて腫れているが、歯を食いしばって一歩を踏み出した。    〇〇〇  宿に先に戻ったマヒワは、自分の部屋にいた。  窓枠に腰かけて、風景を眺めていた。  しかし、マヒワの頭の中では、長元坊が地面に転がって泣いている姿が、浮かんでは消えた。 「あいつ、悔しかったんだろうな……」  ――長元坊は痛くて泣いてたんじゃない。  剣術家相手に何の反撃もできない自分が悔しかったんだ。
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