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 師匠の仇討ちなど夢のまた夢であることが口惜しかったんだ。  相手の拳をひたすら狙う戦法は卑怯だったのだろうか?  徒手なら拳や足が武器になる。  相手の武器を無力化するのは立派な戦法だ――。  しかし、「こんなの、稽古でも、仕合でもない」とマヒワは思う。  自分が考えつくのだから、双極流の連中だって思いつくはずだ。  長元坊が仇討ちを挑んだところで、集団でよってたかって拳や足ばかり狙われて、転がったところを滅多打ちにされて……。  ――ひょっとしたら、長元坊の師匠も同じような戦法で殺されたのかもしれない。 「双極流か……。どんな流儀なんだろう?」  マヒワは双極流剣術の術理や型を全く知らなかった。  剣術でも中身は様々だ。  屋内での闘いを想定した流儀もあれば、マヒワの御光流剣術のように複数の敵を相手にすることを得意とする流儀もある。  双極流は、ひょっとして、ひとりの相手を複数人で取り囲んで仕留める流儀なのかもしれない。  ひとりで複数を相手にする御光流と、複数人でひとりを相手にする双極流――。 「……面白い。どっちが強いか、やってやろうじゃないの!」  マヒワの眼が光り、口元に不敵な笑みを浮かべた。  マヒワが双極流との仕合を申し込んだことをバンが知ったのは、夕食の時だった。  その日の夕方、マヒワがしきりに酒を勧めるものだから、まだ少し早いと思ったが、宿屋の一階の食堂兼居酒屋に下りていった。  いまバンの目の前にある川魚の甘露煮は、少し塩味を強めにしているので、酒のあてにはちょうどよかった。  ついつい酒がすすむ。  いつの間にか、おやじが味噌を卓上に置いていった。
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