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 双極流からの返事は思っていたより早かった。  翌日の朝早く、マヒワの部屋に宿屋の主人が現れて、「双極流からお迎えの方が食堂でお待ちです」と伝えてきた。  マヒワは身支度を調えると、宿屋の一階の食堂に向かった。 「双極流のビンズィと申します」  と名乗ったのは、マヒワより十歳ほど年上の落ち着いた雰囲気の女性だった。きれいな長い黒髪を、襟首のあたりで束ねていた。 「御光流のマヒワです。この度は他流仕合をご承諾いただき、ありがとうございます」 「当流にとっても、またとない機会をお与えくださり、感謝いたします」  ビンズィが、あのヤクザな連中と同じ流派だとは、全く思えなかった。 「ところで、マヒワ様」  とビンズィが改まった様子で、「他流仕合の前にマヒワ様を案内したいところがございます」と言った。 「どちらに伺うのか、聞いてもよろしいですか?」  ビンズィの雰囲気は柔らかいが、双極流に対する印象があまりよくないので、マヒワは、自分が必要以上に警戒しているのを感じた。 「ええ、もちろん」  ビンズィは、マヒワの緊張を和らげるように微笑んで、「宗家のところでございます」と言った。  マヒワは、ビンズィに「ここで、お待ちください」とお願いして、バンの部屋に行った。  バンを部屋から引っ張り出すと、自分の部屋に押し込んだ。  長元坊に聞かれるとまずいので、自然と会話もひそひそ話になる。 「おじさん、双極流から迎えが来たわ」 「そいつは、お早いことで」 「でも、ご宗家のところに、まずはご案内ですって」 「ご宗家っていやぁ、お嬢と同じ剣聖さまってことで」
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