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 マヒワは腰に差していた剣を鞘ごと外すと、右手で持った。  剣術の世界では、利き手で柄を握れない状態にすることによって、攻撃する意思のないことを示す。  マヒワはビンズイに剣を預けると、老人の傍に移動し、ビンズィの用意した椅子に座った。  ビンズィはマヒワの剣を壁際の刀架に架け、老人の枕元に控えた。  老人の眉毛は白く、そして長かった。  眉の下に猛禽類を思わせる鋭い目があった。  今は筋肉がそげ落ちているが、大柄で骨太であった。  現役の頃は、(いわお)のような体格だったに違いない。 「この度は、お招きいただき、ありがとうございます。御光流剣術のマヒワです」 「双極流剣術の宗家、アオジと申す。マヒワ殿を案内してきたのは、娘のビンズィじゃ」  そう紹介されて、ビンズィが改めてお辞儀をした。 「村で伺いましたが、ご宗家は剣聖の誉れ高き剣術家であらせられるとか」 「昔このあたりに野盗があらわれよっての。そやつらを退治したときに、みながそういいよったわい」 「軍も治安部隊も手を焼くような野盗を退治なされたのですから、名誉なことに違いありません」 「(わし)の先祖はこのあたりを治めておった」 「御領主でしたか」 「うむ。領地が王国に編入されたとき、帰農してな。それでも根っからの武人じゃ。有事の際には、この地の者たちのために、率先して働いてきたものよ」 「野盗のときにも、自警団を組織されて、勇ましく立ち向かわれたとか」  マヒワの言葉に、アオジは機嫌良く頷く。 「マヒワ殿は、ひとを持ち上げるのが上手いの」  いえ、いえ――、と慌ててマヒワは両手を振った。
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