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「あの頃の記憶が甦ってきたわえ。そう、マヒワ殿は――マガン元帥のお身内であったの」 「はい。養女(むすめ)です」 「ふふふ。儂が野盗相手の自警団を組んだ頃、双極流(そうきょくりゅう)を立ち上げた……」  そして、アオジが含みのある笑いをマヒワにむけて、話し始めた内容にマヒワはめまいを覚えた――。  野盗を退治した功績で剣聖となった双極流のアオジの元に、ある人物が現れたのだ。  それは――、 「マガン元帥、直々のご来駕よ」  と、思いがけない人物の登場である。  ――父上は一体何を。二十年前なら、まだ現役バリバリ、正真正銘の元帥なのでは? 「マガン元帥は、御光流剣術のお家元。しかもすでに剣聖でいらした。まぁ、武術界の社交というものでな……」  武術界では、実力と名声が伴った者が新たに流儀を立ち上げると、おもだった家元が挨拶に来るのだという。 「そのとき、マガン殿は現役の元帥でな。お付きの者を大勢引き連れて、お越しいただいた。儂ら下々の者にとっては、まさに軍神さまよ……」  しゃべりすぎたのか、アオジが咳き込んだ。  ビンズィが白湯を差し出す。  アオジは白湯を啜って、一息つくと再び話し始めた。 「あの頃の儂は若かった。多くの部下を引き連れて現れたマガン元帥を、実に格好良いと思った。それでな――」  廻国修行の際に、多くの弟子を引き連れて行くことにしたそうな。 「――他流との相手は弟子たちにさせて、自分はふんぞり返っておった。いま振り返れば、若気の至り。いやはや、お恥ずかしいことじゃ」  そう言って、ふおふお、と笑った。  仕方なく、マヒワもお愛想笑いをする。
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