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「それで、一流となった御流儀の特徴は、一体どのようなものでありましょう?」 「ん? つい、思い出ばなしにふけってしまい、流儀のことをまだお話しておらんかったの」  あとでビンズィから聞いたところでは、このときのアオジは珍しく機嫌がよかったらしい。  宗家自らの説明によると、『双極流』とは、農民のための武術だそうな。  野盗の襲撃を受けたとき、満足に武器を持たない農民たちが如何に闘うかに特化して二つの技術体系を作り上げた。  一つは、農民は人数が多いという利点を生かし、ひとりの敵に集団であたる群狼の技で、もう一つは相手の武器を奪って反撃する無手の技だ。 「儂は、群狼の技を息子のアインに、無手の技を娘のビンズィに伝えた」 「それでは、いま両方の剣術を伝授されている方はいらっしゃらないのですか?」 「アインがもう少しましなやつであれば、な……」  マヒワたちの想像どおり、弟子を引き連れた、きらびやかさに目が行き、肝心の修行はなおざりになってしまったとのことだった。 「まぁ、まともな後継者に育てられんかったのは、儂の責任じゃから、愚息の素行の悪さばかりを責められぬ……」  といって、アオジは大きなため息をついた。 「ところで、マヒワ殿――」  マヒワは突然斬り込みを受けたような感じがした。 「なぜ、見取り稽古でなく仕合を望まれたのか、お聞かせ願えまいか」  空気が、一瞬にして、ぴりりとしたものに変わった。 「あたしは双極流のことを知りません。今までの経験から、どのような術理かを知るには、身をもって体験するのが一番だと思っていますので、仕合をお願いしました」
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