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最後は言葉にならなかったが、アオジは涙を落とさなかった。それが自分に課せられた試練であるかのように――。
マヒワには語りかける言葉が思い浮かばなかった。
父アオジの辛苦を感じ取り、ビンズィは鼻を啜っている。
「マヒワ殿――。儂はな、腹を括った……」
と目尻の涙を拭おうともせず、アオジが言った。
その表情から、マヒワは悲痛な覚悟を見て取った。
「いけません、ご宗家!」
マヒワは身を乗り出して制した。
「止めてくれるな、マヒワ殿。これはな、我が一族のことじゃ」
マヒワは、なおも、思い止まらせようと腰を浮かした。
そのとき、庭のほうから垣根の扉が壊れるような音がした。
三人の目線が一斉に向けられた――。
足音も荒く、息も絶えだえに駆けてきたのは、バンだった。
「どうしたの、おじさん!」
「ぼうが、坊が! 行っちまいやがった!」
「えっ! 行っちまったって、どこへ?」
「お嬢が、双極流に仕合を申し込んだ話を宿屋の主人から聞いたもんだから、そしたらやつは聞く耳ももたねぇで、抜け駆けだ! って、叫んで飛び出していったんです!」
「本当にあいつはッ! それで、どっちへ行ったの?」
「ここの修練場のほうへすっ飛んできました!」
「おじさんは、治安部隊に連絡を! テンに乗るといいわ! 急いで!」
マヒワはバンに指示をだすと、架けていた剣をとって腰に差しながら、
「すみません、ご宗家! あたし、止めに行ってきます!」
といって、駆け出した。
修練場の場所は、案内されたときに把握していた。
マヒワは、この離れ家とは敷地の反対側にある、大きな建物に向かった。
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