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 それらの技はどれ一つとして、同じ型がなかった。  ――ひょっとして、無手の技を見せてくれているのかもしれない。  マヒワも相手を倒しながら、ビンズィの技を脳裏に焼き付けていく。  本来ならビンズィは奪った武器で反撃しているのだろうが、そこは同門の剣士だけに避けているのだろう。  瞬く間に剣士たちの数が減り、修練場に立っているのは、マヒワとビンズィ、そして兄のアインだけになった。  アインは怒りで顔がドス黒くなっていた。  ビンズィを睨み付けている。 「お前は、何をしている!」 「兄さんこそ、何をしていたの?」  ビンズィが長元坊のほうへ視線を向けた。  長元坊は床に転がって、もがいている。  血だらけになっているが、致命傷はないようだ。 「また、ひと殺しを重ねるつもり?」 「うるさい! 俺はひと殺しをしたことはない! 殺したのは周りの連中だ!」 「さいてい……。兄さん、最低よ!」  妹の言葉を聞いて、アインの怒りが膨らんでいく。 「双極流の二代目なら、一門を率いる立場でしょ! お父さまがすべての技を兄さんにお伝えにならなかった理由が、まだわからないの!」  ビンズィの声が修練場に響いた。 「――そのとおり。門弟の不始末は、宗家の責任。二代目であるはずの、お前の覚悟は全くなっとらん」  その場にいた全員の目線が声の主に向けられる。  そこには、アオジがいた。  アオジは、二本の長柄に台座を載せただけの簡素な輿に乗っていた。  使用人たちに担がせて来たのだ。 「ビンズィ、許す――。やってみせよ」  アオジの命にビンズィが頷く。  ビンズィはアインに対峙した。  アインが剣を構えて、上段に振りかぶっていく。
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