11/14
前へ
/220ページ
次へ
 長元坊は、師匠が雷拳の技で剣に勝ったと信じている。  ビンズィがアオジの返事を待った。  アオジがビンズィに頷く。  ビンズィは剣でアインを牽制しつつ後ろへ下がり、十分に距離をとったところで奪った剣を床に置いた。  そのまま、さらに間合いを開けた。  アインは、ビンズィとマヒワに警戒しながら足を運び、剣を掴んだ。  長元坊はその間に立ち上がていた。  アインは完全に長元坊を侮っている様子だった。  アインは剣を正面に構えた。  その腰の高さと足の開き具合から、突きを放って、速攻で片をつけるつもりであることが、マヒワには判った。  マヒワは助勢したいのを我慢した。  これは雷拳の名誉をかけた闘いなのだ。  しかし、長元坊は、昨日の痛手がまだ癒えていないのは明らかだった。  先ほど一方的にやられていたのも、その所為だろう。  そんなぼろぼろのからだでいながら、長元坊は膝を緩め、腰を低くして、両方の拳を顔の前に立てた。  マヒワには、見覚えのある構えだ。  長元坊は、拳を解いて平手に変え、右手をアインに向けた。  手先で、こいこいと煽って、アインを挑発する。  アインが誘いに乗った――。  床を踏みならす音が響き、突きが放たれた。  迫ってきた剣先を、長元坊は差し出した右手でたぐり寄せるようにいなして、アインの懐に飛び込んだ。  二人が重なり、雷鳴が響いた。  ――これが雷拳!  マヒワに戦慄が走った。  顔面に三発、肋骨底部に一発、股間に一発、最後は両腕を抱えて投げを打つ。  これだけの攻撃が一瞬の連打で一つになり、雷鳴のように聞こえるのだ。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加