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 穀物倉庫で自分の受けた技など、遊びのようなものだった。  アインは連打の途中ですでに気を失い、剣を取り落としていた。  長元坊は、投げ打ったアインの上にまたがり、顔を殴りつけていた。 「畜生! 畜生!」  叫びながら、振り上げた拳を何度もアインの顔に叩き付けた。  アインの顔は腫れあがり、瞼が切れ、歯が折れ、血の混じった唾液が飛んだ。  マヒワは長元坊に背後から駆け寄って羽交い締めにすると、アインから引き離した。  アオジのところまで引きずっていって、一緒に床へ転がった。  マヒワは組んでいた腕を放して、立ち上がった。  足下では、長元坊が横になり、背を丸めて泣いていた。 「……雷拳、見事であった」  そう声を掛けた、アオジも泣いていた。  アオジの眼は、今は亡き友、湛界坊の姿を見ていた。  修練場の入り口が騒がしくなり、治安部隊が入ってきた。  治安部隊長が、アオジに挨拶すると、隊員たちが床に転がっている剣士たちを拘束した。  アインも応急措置をされたのち、拘束された。  隊員は長元坊のところにも来たが、マヒワが止めた。 「彼は被害者です。落ち着いたら、あとで、あたしと一緒に報告に伺います」  そう聞いた隊員は、隊長に承諾を求めに行った。  承諾が得られたのか、その隊員はマヒワに敬礼を返した。  やがてアインを含めて拘束された者たちが連行されると、アオジもビンズィも疲れた様子で離れの建屋に引き上げていった。  修練場は急に静かになった。 「坊……」  マヒワが呼びかける。  それに応えるかのように、長元坊は仰向けに転がった。 「坊は、立派に師匠の仇を討ったよ……」
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