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マヒワは泣き濡れた長元坊に話しかける。
その言葉に、長元坊の泣き声はまた大きくなった。
「ちょっと、坊!」
さすがにマヒワはあきれた。
「……なぁ、マヒワ」
長元坊がしゃくりながらマヒワに語りかけた。
「――なぁに?」
いちおう、やさしくこたえる。
「なぁ、マヒワ。仇を討ったって、師匠は帰ってこないんだな……」
長元坊のつぶやいた言葉に、今度はマヒワが泣きそうになった。
「ばか! ばか言ってんじゃないわよ! お師匠さんは、お姿を隠されているだけで、いつも坊のことを見ていらっしゃるんだから!」
マヒワが叱るようにいった。
長元坊は涙で濡れた眼でマヒワを長いこと見つめて、
「お前――、いいやつだな」
と、つぶやいた。
「うるさい!」
――そうだよね、お母さんも、お父さんも、いつもあたしを見てるよね。
マヒワは母の形見の帯鉤をなでながら、心の中でつぶやいた。
あとで長元坊の傷の具合を調べると、全身に切り傷があった。
器用にもすべての斬撃を見切っていたようで、皮一枚を斬らせて、深手はなかった。
長元坊は、ビンズィに手当をしてもらって、包帯でぐるぐる巻きにされた。
その日の夕方、マヒワは長元坊に付き添って、村に設けられた治安部隊の臨時の詰め所に行き、長元坊の師匠が殺された件と修練場の仇討ちの経緯を報告した。
形式的な事情聴取が行われ、長元坊には、師匠のものであった水晶珠の腕輪が返された。
翌日――。
マヒワが目覚めたとき、長元坊の部屋はすでに空いていた。
――あの包帯男、どこへいったのよ?
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