13/14
前へ
/220ページ
次へ
 マヒワは泣き濡れた長元坊に話しかける。  その言葉に、長元坊の泣き声はまた大きくなった。 「ちょっと、坊!」  さすがにマヒワはあきれた。 「……なぁ、マヒワ」  長元坊がしゃくりながらマヒワに語りかけた。 「――なぁに?」  いちおう、やさしくこたえる。 「なぁ、マヒワ。仇を討ったって、師匠は帰ってこないんだな……」  長元坊のつぶやいた言葉に、今度はマヒワが泣きそうになった。 「ばか! ばか言ってんじゃないわよ! お師匠さんは、お姿を隠されているだけで、いつも坊のことを見ていらっしゃるんだから!」  マヒワが叱るようにいった。  長元坊は涙で濡れた眼でマヒワを長いこと見つめて、 「お前――、いいやつだな」  と、つぶやいた。 「うるさい!」  ――そうだよね、お母さんも、お父さんも、いつもあたしを見てるよね。  マヒワは母の形見の帯鉤(バックル)をなでながら、心の中でつぶやいた。  あとで長元坊の傷の具合を調べると、全身に切り傷があった。  器用にもすべての斬撃を見切っていたようで、皮一枚を斬らせて、深手はなかった。  長元坊は、ビンズィに手当をしてもらって、包帯でぐるぐる巻きにされた。  その日の夕方、マヒワは長元坊に付き添って、村に設けられた治安部隊の臨時の詰め所に行き、長元坊の師匠が殺された件と修練場の仇討ちの経緯を報告した。  形式的な事情聴取が行われ、長元坊には、師匠のものであった水晶珠の腕輪が返された。  翌日――。  マヒワが目覚めたとき、長元坊の部屋はすでに空いていた。  ――あの包帯男、どこへいったのよ?
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加