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 あの男、いると何かとやらかすので面倒だったが、いないと寂しいものだ。  タイゲン村での出来事も一通りの解決を見たので、マヒワとバンもロウライに向けて出立することにした。  宿屋の主人に、宿代の支払いをしようとすると、 「長元坊さまから、お二人のお部屋代も頂戴しております」  と、差し出したお金を押し戻された。 「あらまぁ。あいつ、余計なことを……」  マヒワとバンは顔を見合わせた。 「それで、長元坊さんは、包帯をぐるぐるに巻いた不細工な格好で、どこに行くと言ってました?」  お嬢、その言い方――、とバンはマヒワの袖を引っ張ったが、無視した。 「うふふ、面白い格好でしたね」  ――主人までのってくるか。  まぁ、ひとにそうさせるのが長元坊らしさなのだろう。 「ロウライとは反対の方向に行かれましたよ」  マヒワはそれを聞いて、長元坊の去って行った方向を眺めた。 「マヒワ様たちのお部屋代をお支払いになるとき、こんなもんじゃ礼にもならないけれど、今の自分にできることはこれくらいしかない、とかおっしゃってね」  そこで主人は、そのときの長元坊の仕草をまねて、 「マヒワ様のおかげで戻ってきたんだと、こう、水晶の腕輪を陽の光にかざされましてね。自分が雷拳を引き継いで立て直すのだ、とかおっしゃってました」 「ふーん」  ――頑張れよ、坊。あたしも頑張る!  マヒワたちも宿屋の主人に礼をいい、タイゲン村を出発した。  マヒワは、廻国修行で他流仕合をしたら強くなれるかも、と無邪気に考えていた。  だが、タイゲン村の一件で、流儀を背負うことの厳しさを、マヒワは痛いほど感じた。
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