序章

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序章

 マヒワが従者のバンを伴って剣術の廻国修行に出発してから、半月が過ぎた。  春先の旅なので、夜はまだ肌寒い日もあったが、昼間の移動では季節が夏に近づいていることを感じさせるような、爽やかな日が続いていた。  その間、街の宿屋に泊まれるように予定を組んできたが、ときには野宿もした。  最近では、野宿も手際よくできるようになっていた。 「お嬢さま、つぎの街には、とてもじゃねぇが、今日中にたどり着けそうにありやせん。このあたりは地形もよいので、野宿の準備にかかりやしょう」 「そうね、おじさん。さっき同門の歓迎会でたくさん食べたから、全然お腹減ってないし、あとはほんとに寝るだけね」  今日は、同じ流派の剣術の稽古に混ざったあと歓迎会に呼ばれ、お開きになった頃には日暮れ間近になっていた。  すでに宿の支払いを済ませてしまったあとなので、そのまま馬に乗って街を出た。  二人は街道から少し入ったところにある古代の神殿跡で野宿の準備を始めた。  円柱の跡に腰を下ろし、祭壇の跡らしき場所で火を熾した。  石を敷き詰めた床は状態がよく、今日はぐっすりと眠れそうだった。  温かい飲み物を飲むと、からだもほどよく温まって、マヒワは眠くなってきた。  その様子を見た従者のバンは、 「お嬢さま、あっしがまず見張りをしますので、どうぞお先にお休みくだせぇ」  と言葉を掛けると、柴を折って、熾したばかりの火にくべた。 「うん……おじさんが眠くなったら、起こしてね。交代するから……」  マヒワは横になると、たちまち寝息を立て始めた。
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