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2.kaname
うちの相棒、クズは昔から超がつくほど鈍感だ。
一番ひどかったのが授業中、自分の足に金槌が落ちたことに気付かずそのまま家に帰って母親に言われてやっと痛みに気付いたこと。
僕はそんなクズを隣で見てて、憐れに思うことがある。
クズに対してではなく、彼を好きになる女の子たちに。
アホでも分かるくらいアピールしてるのにクズは全く気付かない。
いやもはや見てもない。
そしてそんな彼女たちに優しくしてるだけで何故か僕のファンは増えていく。
ありがとう、クズ。
そんなクズにも好きな子ができた。
悠良ちゃん。
僕と王子様の座を争っている、いや彼女は全くそういうことに興味がなさそうだ。
彼女もまたクズのことが好きみたいだ。
なのに、クズはやはり鈍感で彼女の気持ちはおろか、自分の気持ちにすら気付いていない。
「クズー。」
「お前その呼び方やめろ。」
「悠良ちゃんのことどう思う?」
「え?どう思うって?」
「女の子として。」
「え?いやぁ、あいつは俺のライバルだから。絶対いつか勝ってやる。」
「可愛いよね、悠良ちゃん。」
そう言って揺さぶりをかけてみる。
「可愛い?いや、まぁ可愛いとこもある。ああ見えて可愛いものが好きとか甘いものが好きとか、ギャップはあるよな。あとあいつすぐ顔赤くなるし。何かからかいたくなるんよな。」
「ふふ。」
「なんだよ。」
「悠良ちゃんのことよく知ってるね。からかいたくなるのは好きだからじゃないの?」
「はぁ?!好きとかじゃねぇし!」
「あと七恵とお前、何故か付き合ってるって噂になってるけど?」
「え!!なんで?」
「前に僕がいない時に二人で帰ったのを見られたんじゃない?」
「あれはあいつに脅されて泣く泣く付き合っただけだ。」
「ちなみに悠良ちゃんにも誤解されてるから早く誤解といた方がいいよー。」
ってどうせ上手くできないだろうけど。
クズは子供の頃から七恵に弱かった。
七恵は見た目は華奢で弱そうに見えるけど中身は完全にジャイアンだ。
裏で僕らはジャイ子って呼んでた。
僕はそんな七恵が好きだった。
初恋みたいなものかな。
初恋が終わったのは七恵が僕の写真を何百枚と隠し持ってたことを知った時だった。
一気に気持ちが冷めて、七恵が怖くなった。
まさか幼馴染みが僕のストーカー...いや熱狂的なファンだったなんて...
クズはそのことを知らない。
あれからできるだけ七恵とは距離をとるようにしてる。
そして七恵も決して近づいてはこない。
それがまた怖いんだ。
いつ、どこで隠し撮りされてるか分からないから学校にいる間は片時も気を抜けない。
リラックスできる場所はトイレしかない。
「要先輩、眉間にシワすごいですよ。ほら。」
百花が差し出してくれた手鏡が祖母の家にあったものと同じだった。
「百花、お前おばあちゃんみたいだな。」
「早く年取っておばぁちゃんになりたい。」
「え?なんで?」
「おばぁちゃんになったらあの用務員さんとも普通に話せるから。」
僕の周りには変わったやつしかいない。
普通なのは僕だけだ。
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