3.momoka

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3.momoka

私にはお父さんがいなかった。 だから子供の頃は母が働きに出て、祖父母が親代わりだった。 その影響か私は随分と渋い趣味に走ってしまった。 用務員のおじさん、今日も素敵だなぁ。 おじいちゃんにちょっと似てるなぁ。 と眺めていると、 「おじいちゃん、もう腰大丈夫?」 と駆け寄るのは生徒会長。 「あぁ、大丈夫だよ。ありがとうな暁。」 「あんまり無理しないでよ。」 生徒会長のおじいちゃん? まさか。 でもよく見るとどことなく雰囲気が似てる。 「あれ?臼井さん?」 き、気付かれた! 「おはようございます、生徒会長。」 「何してるのこんなとこで。」 「ちょっと探し物を。というか、生徒会長と用務員さんて、」 「誰にも言わないで。恥ずかしいから。」 「恥ずかしい?」 「おじいちゃんが学校にいるって恥ずかしいじゃないか。」 「はぁ?あんな素敵なおじいちゃん、私なら自慢して回りますけど?」 そんな言い合いをしてると、 「百花、どうしたの?」 と悠良が止めにきた。 悠良がこなかったら危うく生徒会長のこと殴り飛ばしてたかもしれない。 「へぇー生徒会長のおじいさんだったんだ。」 「そう。なのに、恥ずかしいだなんて。」 「感じかたは人それぞれだから。」 「それはそうだけど。」 「でも、生徒会長ってちょっとおじいちゃんぽいよね。」 「え?」 「落ち着いてるというか、いつも図書室で難しそうな本読んでるし。」 そういえば前に、たまたま祖母と行った喫茶店に生徒会長がいた。 レトロな雰囲気で落ち着くお店ですぐに好きになったけど、奥の席で一人コーヒーを飲みながら本を読んでる生徒会長を見つけて ここには二度と来れないな と思った。 顔を会わせたくないからではなく、彼の邪魔をしてはいけない気がしたからだ。 それ以来あのお店には行ってない。 彼はまだあのお店に通ってるんだろうか? 「こないだはごめん。確かに君の言う通りだ。」 翌日、生徒会長はわざわざ謝りにきた。 「私こそ何かごめんなさい。」 「うちのおじいちゃんのこと、素敵って言ってくれて嬉しかった。」 「だってほんとに素敵だから。いつもお花に話しかけながらお水をあげてるとことか、掃除しながらグラウンドを懐かしそうに見つめてる横顔とか、」 「え?」 「いいでしょ、誰に片想いしても。片想いは自由なんだから。」 「...そうだね。」 「そういえば生徒会長、まだあの喫茶店通ってる?」 「あの駅前の?なんで僕があそこに通ってること知ってるの?」 「前に一度見かけたから。神妙な面持ちでコーヒー片手に本読んでた。」 「あの喫茶店の雰囲気好きなんだけど、高校生の僕が入るには場違いな気がして、だから飲めないコーヒー無理して飲んで難しそうな顔して本読んでる。」 「なにそれ、面白すぎでしょ。」 「大人の仲間入りにはツンのめるぐらい背伸びしなきゃいけないんだよ。」 この人、私と一緒なんだな。 「じゃあ今度一緒にあの喫茶店いこ。その時はクリームソーダね。」 「いいよ。実は一度飲んでみたかったんだ。」
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