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19
結局、ショッピングモールは人が多すぎて、目的もなく歩くのは無謀すぎたため、すぐに帰ってきた。途中で入った牛丼屋も混んでいたので、年始からお疲れさまです、と駿太郎は店員に感謝する。
そして今はソファーに二人で座り、テレビを見ようとザッピングしていた。けれど、こちらも面白そうなのがなくてすぐに電源を落とした。
「なぁ友嗣、それいつまで抱えてるんだ?」
駿太郎は隣の友嗣を見やると、友嗣はえへへ、と笑いながら抱えたものをさらに抱きしめる。よっぽど気に入ったのか、頬ずりまでして本当に嬉しそうだ。
「抱えててももったいないだろ。気に入ったなら着れば?」
「やだー」
ニコニコしながら買ったルームウェアを抱きしめる友嗣に、駿太郎は内心喜んでいた。決して高くはないものだけれど、これだけ喜んでくれるなら買ったかいもある。
駿太郎は友嗣に凭れると、緩みっぱなしの彼の顔を覗いた。
「嬉しかったか?」
「うん」
シュンとお揃い、と笑う友嗣がかわいい。駿太郎は逡巡したあと、彼の唇に自分のを軽く当てた。
すると友嗣は驚いたものの、すぐにまた破顔する。
「あはは、シュンってほんと、かわいい」
おいで、と手を広げる友嗣に、駿太郎は素直にその腕の中に収まった。
「おい、これは置いとけよ」
「やだ。これ気持ちいいから」
友嗣は駿太郎を抱きしめると同時に、ルームウェアも一緒に抱きしめた。邪魔だと文句を言うと、ただの服に嫉妬してるの? なんて聞かれる。
「違うっ、ホントに邪魔なだけで……!」
しかもわざわざ駿太郎と友嗣の間に挟むから、変な体勢になってしんどい。熱くなる顔を自覚しつつ、駿太郎はボソボソと「お願い」をした。
「……取ってくれよ……ちゃんとくっつきたい……」
「……うん」
言う通りルームウェアを取った友嗣は、改めて駿太郎をしっかり抱きしめてくれる。温かい体温にホッとすると、なんの違和感もなく落ち着くことに気が付いた。
(そうか。この間お互い離れられなかったのも、友嗣も心地いいと感じてたからか)
やっぱり相性はいいと思い知らされ、友嗣に擦り寄る。彼はくすぐったそうに笑って、頭を撫でてくれた。
「シュン、したいの?」
「違う。……こうしてたいだけ」
「そっか。……シュン、好きだよ」
ん、と小さく返事をすると、二人とも無言になる。けれど気まずい雰囲気はまったくなくて、不思議だな、と駿太郎は思った。
あれだけ友嗣とは合わないと思っていたのに、もう何年も一緒にいるかのような落ち着きだ。穏やかに上下する友嗣の胸をじっと眺めていると、優しくトントンしてあげたい気分になる。
(でも、これが恋愛感情としての【好き】なのか、わからないな……)
しかし、この穏やかな時間は好きだ。何をするわけでもなく、友嗣の体温をただ感じるだけのこの行為が、こんなにも落ち着くとは思わなかった。
(恋愛じゃないけど……家族みたいな、そんな感じ?)
今までしていた恋愛のように、激しく湧き上がるものはない。駿太郎の家族とは少し心の距離が開いてしまったけれど、それを埋めてくれるような……そんな存在だ。
(歳上だけどかわいいと思う。それは認めよう)
弟のように甘えてくる友嗣はかわいい。よしよしと頭を撫でれば自分の心もくすぐったくなるし、彼もくすぐったそうに笑う。――この関係は、恋人と言って良いのだろうか?
「なぁ友嗣」
「ん?」
低く甘い声。それにぞくりとしながら、駿太郎は彼の胸に擦り寄った。
「もうどこにもいかないか……?」
結局、駿太郎が不安なのはそこなのだ。モテる友嗣のことだから、ある日突然いなくなるかもしれない。それが怖い。
「今日はこのまま、まったりしたい?」
「あ、いや、そういう意味じゃなかった……」
駿太郎の声に何かを感じたのか、友嗣は抱きしめる腕に力を込めて体重をかけてきた。そのまま押し倒され、彼の体重が心地よく駿太郎の身体にかかる。
「……ふふ、シュン、したそうだよ?」
「なんだよそれ……」
「ん? 寂しいって顔」
そう言った友嗣の顔が近付いた。柔らかく唇を啄まれ、ここではしないって言ったのに、と弱々しい声で駿太郎は言う。
(そうか、俺は寂しいんだな)
首元に顔を寄せてくる友嗣の頭に腕を回した。濡れた温かい感触にふるりと肩を震わせると、腰の奥で燻っていたものに火がついてしまう。
「ゆ、……じ、ダメだって」
「どして?」
ここではセックスをしない、という約束が、なし崩しに反故になるのは嫌だった。そもそもしない前提なので、必要なグッズも置いていない。
――それなのに、友嗣に回した腕が離せなかった。なぜなのかもわからず、けれどこの温もりは離したくないと、友嗣が身動きできないほど腕に力を込める。
「あはは、痛いって」
「悪い、でも……」
「ん。いいよ、慰めてあげる」
そう言って友嗣は駿太郎の腰を撫でた。慰めるという表現が合っているのか、と彼を見ると、優しい顔なのに強い欲情を湛えた友嗣と目が合う。
「あ……」
ふるり、と肩が震えた。その視線の壮絶な色香に、一体どこにそんな感情を隠していたのかと思うほど。
(いいのか……? こんな、中途半端な気持ちなのに……)
友嗣が示すほど、駿太郎の気持ちが追いついていないのはわかっている。今だって、その場の快楽に流されそうになっているだけかもしれないのに。
「シュン、今だけ忘れなよ」
そう言った友嗣は駿太郎の唇を優しく啄んだ。拒むことを放棄した駿太郎の身体は、易々と敏感な身体を明け渡す。
どうしてだろう、なんでだろう、と自分と友嗣に心の中で問いかけながら、駿太郎は次第に霞んでいく思考を手放した。
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