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青山俊平は大学の演劇研究会に属していた。ミッション系の大学であったためか、その劇研では毎年卒業の直前にシェイクスピアの作品を上演するのが慣わしだった。俊平の同期に福島五郎という演出家志望の男がいて、劇研の芝居を単なる学生演劇を越えるレベルにまで高めていた。何度かマスコミにも採り上げられた福島は、卒業後も演劇を続けるため、劇団を新たに組織する決意を固めた。福島は俊平を誘った。
「なあ、青山。卒業後も俺と一緒に芝居をやろう。シェイクスピアの芝居をとことん突き詰めて、よその劇団の連中をあっと言わせてやろうぜ。俺達ならきっと天下を取れる。俺にはおまえが必要なんだ」
心酔していた福島の誘いを断る気は、俊平にはさらさらなかった。就職を勧める親には、十年黙って見ていてくれと頭を下げた。生活費を稼ぐために、あるレストランの接客のバイトに応募し、芝居のときは休みを貰えるという条件で働きだした。
福島はよその大学の劇研の連中にも声を掛け、総勢十二人の劇団を創設した。事務所での最初の会合で福島は宣言した。
「俺はこの劇団で十年以内に結果を出す。そのためには何でもやる。だから、この劇団は俺の独裁にさせてほしい」
ざわめく一同を福島は制した。
「何でもみんなで話し合って民主的に決めるという劇団もある。が、それではいつまでたっても仲良しクラブで、プロにはなれないと思う。俺を信じて、俺についてきてほしい。言うまでもなく、納得がいかないときは意見を言ってくれ。話し合いには応ずる。ただ、その結果、俺と合わなければ退団してもらう」
その場に緊張が走ったが、青山は言った。
「俺は福島を信じてついてきたんだ。それで構わない」
他の連中もうなずいた。
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