狂王誕生

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「じゃあ、ルールをここで宣言する。一、劇団内では恋愛禁止。二、生活のためのバイトは自由だが、テレビと映画は出演禁止。三、団員間での金の貸し借りは一切禁止。以上だ」  青山と同じ大学出身の中川が尋ねた。 「念のため、それぞれの禁止事項の理由を説明してくれ」 「ああ、いいよ。一つ目は、団員同士で恋愛すると必ずそれが演技に影響する。想像してくれ。喧嘩別れをした相手を舞台の上でくどくことができるか?」  団員の間から失笑が漏れた。 「次に、テレビや映画に出るようになると、その影響が舞台の上で出てしまう。リアリティばかり求められるテレビや映画は、俺たちにはまだ早い」 「確かに」というつぶやきが聞こえた。 「そして、金の貸し借りの件だが、金を貸せば相手に優越感を持ち、金を借りれば相手に劣等感を持つ。金を借りてる相手に『おまえの演技はなってない』と言えないだろ?」 「その通りだな」と爆笑が起こった。  福島はみなを見回した。 「最後になったが、劇団名は『劇団・一頭の馬』だ」 「一頭の馬だって?」  いぶかる声に青山が答えた。 「リチャード三世だよ。あのラストの台詞だ」 「ああ、あれか」という声がかぶさったが、青山は続けた。 「ラストの場面で、追い詰められた悪党のリチャード三世が言う台詞だ。『馬だ! 馬をくれ! 馬をくれたら、俺の王国をくれてやるぞ!』」 「おもしろいじゃないか」と中川が言った。それで決まりだった。    そうして出発した『劇団・一頭の馬』の歩みは困難を極めた。学生時代はあんなに評判を呼んだ『劇団・一頭の馬』の旗揚げ公演『リチャード三世』は、散々な出来だった。評論家たちからは、「空回りする演出」「学生演劇の延長」「平凡な、あまりに平凡な舞台」と酷評された。  主役を演じた青山は、福島の期待に応えられなかった。初演の翌日、福島は青山に厳しく当たった。
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