狂王誕生

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「青山、もう一度そこの台詞をやってみろ。四ページだ」 「この俺は、美しい均整を奪い取られ、不実な自然の女神のペテンにかかり、不細工にゆがみ、出来損ないのまま、月足らずでこの世に送り出された」 「だめだ! だめだ!」  福島は大げさにかぶりを振った。 「青山、お前は滑舌はいい。声もよく通る。だが、それだけではだめだ。狂王リチャード三世の心の奥底からほとばしる悪意、恨み、野望、その猛々しさがないんだ」  青山は主役を演ずることが次第になくなり、同期の中川が演ずることが多くなった。  劇団は困難な道を歩み続けた。もともと黒字で運営できる劇団は数えるほどだ。御多分に漏れず、彼らの劇団も赤字続きで、一年に二回の公演をするのが精一杯だった。世間の評価はなかなか勝ち取れなかったが、それでも芝居を夢見る若者たちが毎年新たに参加した。しかしながら、演出家の福島と意見が対立して去って行く者も後を絶たなかった。創設七年目を迎えると、初年度のメンバーで残っていたのは、中川と青山だけだった。  その七年目に入団した後輩たちの中に、大学を卒業したばかりの片山みおがいた。みおは派手さはなかったが、天性の勘の良さがあり、福島から評価された。けれども、出番が増えるにつれて福島からの要求の水準が上がり、みおもそれに応えることができず、苦しんだ。みおは思い余って先輩の青山に指導を仰いだ。  青山は、自分では福島の要求に応えるだけの演技はできないのだが、岡目八目とはよく言ったもので、みおに対する福島の要求はたやすく理解することができた。それを噛んで含めるようにみおに教えてやると、みおは素直にそれを吸収するのであった。
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