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「彼らには才能があるから頑張ると思うよ。俺とは違う。俺は芝居を捨てて、みおとの幸せな生活を選ぶ。みおも芝居をやめて別の町で俺と暮らそう」
少し黙った後、みおは口を開いた。
「俊平が真剣なのはよくわかった。だけど、あまりに急な話だから今すぐは返事できない。しばらく時間をちょうだい」
「わかった。福島や中川にも話さなければならないから、二週間以内に返事をくれ」
その話し合いから一週間後のことだった。みおが、青山の留守中に一人で引っ越しをしたのは。
その夜は、やけ酒を飲んで眠るしか、青山にはしようがなかった。
その翌日、福島から青山に電話があり、青山は事務所に行った。
「青山、片山から電話があった。家の都合でどうしても劇団を続けられないので退団を許可してほしいと言って来た」
「それで?」
「故郷に帰ると言うのだから仕方がない。もちろん了承した。代わりのキャスティングは済ませた。ところで、お前、あいつが辞めたことで何か事情を知らないか?」
一瞬ひるんだ青山は、自分を鼓舞するように大きな声を出した。
「いや、知らない。心当たりはまったくない」
「そうか。てっきり、お前とつきあっているとにらんでいたんだが、俺の勘違いだったらしいな」
「そうだよ。だいたい恋愛禁止は当初からの決まりじゃないか」
「そうだよな。冬の公演、お前の出番は少ないけど、裏方で手伝ってくれよ」
「ああ、任せてくれ」
みおに去られた青山は自問した。なぜ、みおは何も言わないで出て行ったのか? なぜ、探さないでと言ったのか?
いくら考えても答えの出ない問いを前にして、毎晩酒に頼った。けれど、飲んでも飲んでも翌日が辛くなるばかりだった。
みおがいなくなった今、レストランの店長を引き受けても意味がない。その話はすぐに断った。
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