狂王誕生

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 リチャード三世は自分の醜悪な容姿、恵まれぬ境遇に対して呪詛を繰り返す。それを聞いている観客は、知らず知らずのうちに、悪の権化ともいうべきリチャードに引き付けられていく。しかし、幼い二人の王子の殺害を契機として、リチャードから観客の心は離れていく。そして、ラストのボズワース平原での決戦を迎える。リッチモンド軍の大軍に包囲され、獅子奮迅の活躍も虚しく、愛馬を殺されたリチャードは叫ぶ。あの台詞を。 「馬だ! 馬をくれ! 馬をくれたら、俺の王国をくれてやるぞ!」  リチャードの喉も張り裂けんばかりの叫びが、観客の心を鷲掴みにした。  運命に逆らい、運命を己が手で変えようとして、最後には転落していく狂王の姿がみなの目に焼き付いた。  幕が下りるや否や起きる拍手喝采。観客が次々に立ち上がる。スタンディングオベーションだ。鳴り止まぬ大音声に応えて、幕が再び上がった。  舞台には劇団員が勢揃いし、その真ん中には俊平がいた。感激に震えながら会場を見渡す俊平の目が、最前列のみおの前で止まった。みおは、両目から溢れる涙を拭うこともせず、ひたすら俊平を見つめている。目と目が合った途端に、俊平の長い間のわだかまりが氷解した。この日のために、みおは一人であの部屋を引っ越したのだと。鳴りやまぬ拍手の嵐のなか、俊平の耳にだけ、みおの声が聞こえてきた。 「わたし、信じていたの、あなたの才能を」               (了) 
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