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このこ
被害者がマル被の子どもで、精神的痛手から緘黙状態となり女性警官では手に負えず、渋谷署へ応援をというのが刑事部長からの依頼だったようだ。
秋山が送迎すると、間取医師は、被害者のひなちゃんを何と現場となった広尾の自宅に連れ帰った。
意外なことに、ひなちゃんは嫌がる事なく無言のまま自宅に戻ると自分のベッドに潜り込んで眠ってしまった。その横に、間取も早々と寝てしまう。
呆気に取られた秋山は、仕方なくリビングで見張り方々各所に報告を入れたりしつつ朝を迎えたのだった。
朝になり、間取とひなちゃんが寝ぼけた表情で起きてくると、自然と秋山が朝食の支度をしてしまう。自分でも情けなくなるのだが、間取医師が食事を作るなどあり得ないだろう。
誰も会話らしい会話はせず、数日それぞれ好きに部屋で過ごしていた。だが気づくといつの間にか会話が増えていた。
特にひなが可愛がっている青い小鳥が、美しく囀る時にはそれだけで場が和んだ。
「前は鳴いてたらしいけど、ちっちゃい頃火事にあって、それから鳴かなくなったんだって…。ママが言ってた…。」
ママという単語を恐る恐る口にする。
「綺麗な鳴き声だね。」
間取は、聴き惚れているだけでひなを気にしない。
「うん!HILOの曲だと一緒に歌うんだよ!きっとこの子、ひなと一緒でHILOのファンなんだよ。」
「小鳥の名前『このこ』?」
間取が言うので、な訳ないと秋山は思ったが。
「うん、このこってママが呼んでる。」
ちょこっと眉を寄せて、ひなが教えた。
「このこちゃんか。可愛いね。」
間取が、ふむふむと得心する。あ、駄洒落か!秋山は勝手に感心した。
「このこちゃん!そう、可愛いでしょ!」
今度は満足そうに、ひなちゃんが笑った。
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