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HILO
(何もこんな時に焼き鳥って、悪趣味すぎる!)
秋山が、狭いカウンターだけの焼き鳥屋で、奥の間取と一課長のジョーカー二人に挟まって憤りつつ食欲を無くしているのに、間取は奢りとばかりに黙々と食べている。
「しかし、マル害があのHILOの子どもだったなんてびっくりですね!」
緊張をほぐすために言った秋山の一言は、すぐさま場をわきまえろと一課長から睨まれ、秋山の胃がまたすくんだ。
本来なら1軍女子のひろみが何故かまゆとしか連まず、まゆへの嫌がらせが常にあったようだ。それに加えて、まゆが好きになった男は悉く、ひろみの方に思いを寄せる。
狙っていたプロデューサーも、ひろみと無理やり関係を結んだ事を知って、まゆは彼を陥れて妊娠を企てた。その目論見は上手くいったが、結局妊娠もひろみに先を越されてしまった。
隠れて男遊びをしていたまゆが、10年前にあやまって娘のひなを死なせてしまい、火事を偽装してまでひろみに勝ちたかったと言う。しかし、知らないうちに距離を置かれたのはまゆの方で、ひろみをHILOとしてデビューできるまでに立ち直らせたのが、ひなの父でパトロンの彼だった事を悟り、その怒りがひなに向かった。
(女って怖い)
秋山は、ポツリと口にした。
「何でわかった?」
軽く飲んでいるだけの一課長は、さらりと間取に尋ねた。
「…突然歌い出したという小鳥の歌声が、HILOにそっくりだった。それに…。」
生後6ヶ月で、生き物は母語の音韻の違いが身につくと言う説がある。ひろみは、子どもと小鳥に常日頃から歌って聴かせていたという。愛情を持って。まゆに育てられたひなも、小鳥も、ひろみの声の記憶が残っていたということか。
「それに?」
秋山の質問に、間取は謳わなかった。
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