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上京
二人は上京すると、ボロい安アパートを山谷に借りた。ペラペラの壁で、一部屋は四畳半に、小さな台所とトイレがついている。上下4世帯の2階建で、8世帯が住んでいた。流石に安いが狭いのでまゆは2階の右端に、その真下の1階にひろみが借りた。風呂は無く、近くの銭湯に出かけて行く。
冷蔵庫は、暑がりのまゆの部屋に二人で一台を買って共同で使えるようにし、掃除機は綺麗好きのひろみの部屋にやはり一緒に買って置くことにするなどして、経費を節約しながらまるでメゾネットのように合鍵を使って行き来したのだった。
もっと遠くに行けば本当にシェアハウスできる物件はあったが、二人とも稽古場や劇団の近い上野周辺でと、この地域に住むことにしたのだった。
とは言えすぐに芽が出るわけではなく、結局18になると割りの良いバイトとして上野でホステスをし始める事になった。ひろみは嫌がっていたが、まゆが一緒にいるならと劇団の先輩の紹介で入店した。
銀座のホステスとは違い、上野は二流と蔑まれることもあるが、客層の違いだけなのか二人の勤めたところは、有名芸人や舞台監督、プロデューサーなども来店する質の良い店だった。
未成年の二人は、酒を勧められることもなくサポートとしてメインホステスについて接客を学んだりもした。それに給金も良かったので、他のバイトをせずに済むようになった。
その分ひろみは作曲や歌の勉強に益々のめり込んでいったが、まゆの方は手っ取り早く金になる水商売の方に力を入れるようになったのだった。
それでも二人は同じ安アパートで、シェアしながらの暮らしを続けていた。お店でも、二人のそんな関係を好ましく思って助けてくれる人もちらほらと増えていった。
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